こんにちは、台湾でウェブマーケティングのサービスを提供する applemint 代表の佐藤 (@slamdunk772) です。
「広告代理店の粗利率は飲食店より低い」と聞いて、驚く方!このブログはそんな方の為に書きます。広告代理店の粗利率が飲食店より低いのは事実です。
しかしながら電通や博報堂といった超有名な広告代理店の人たちを見ると、羽振りが良くてなんかクリエイティブで、どう見ても広告代理店の粗利率が低いようには見えません。
しかしそれにはきちんと訳があります。このブログでは私が広告代理店を経営してみて初めてわかった広告代理業についてお話をします。
広告代理店はなぜ派手な印象があるのか、また同時になぜブラックな印象があるのか、そして広告代理店が考えている将来の方向性について、私が知る限りお話したいと思います。
広告代理店の裏側を知りたいという人!広告代理店に就職したい!と思っているような方は見ておいて損はないと思います。
広告代理店という仕事
「広告代理業って何ですか?」と聞かれて即答できる人はあまりいないのではないでしょうか?そもそも電通なんて広告代理業に止まらず、色々しているので余計広告代理業が何なのかわかりにくくなっていると思います。
そこでそんな広告代理業を以下に一言で定義したいと思います:
『広告代理店とは広告主と広告枠を提供するパブリシャー (パブリッシャー) の仲介役』
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カタカナが入って何だかますますわからないですね。ご安心ください。ちゃんとわかりやすく説明します。
例えば台北市に佐藤大学という生徒数5万人の大学があったとします。この大学の中央広場は毎日約3万人の生徒が行き交います。佐藤大学の理事長はこの広場のど真ん中に掲示板を設置することにしました。
この掲示板には大学の最新のニュースが表示されるほか、広告が表示されます。
佐藤大学の理事長は広告を表示させることで、広告の収入を得ようと考えているのです。この時、広告枠を提供する佐藤大学はパブリシャー (パブリッシャー)となります。
その後、佐藤大学は広告枠を作ったものの、その広告枠に興味がある企業や人を知りません。要するに広告を出してくれる人(広告主)を知らないという事です。
ここで広告代理店の出番です。広告代理店は広告枠を提供するパブリシャーと広告枠を買う広告主の間に入って仲介役となるわけです。(以下イメージ)
でもそもそもなぜパブリシャーである佐藤大学は広告代理店にお話をしたのでしょうか?広告主に直接連絡した方が早いと思いませんか?答えは YES でもあり、NO でもあります。
佐藤大学が広告主に直接連絡をする場合、まず誰が広告枠に興味があるかリサーチが必要です。広告枠を作ったところで、広告枠に興味がある広告主を見つけられなければ意味はありません。そこで広告枠に興味がありそうな広告主の連絡先をリストアップします。
そして次に営業に行くわけですが、営業部隊が必要な上、営業部隊はきちんと広告枠を売ってこなければいけません。この「広告主を探す作業」と「営業をする作業」はとても面倒です。
そこで広告代理店はこの面倒な作業を引き受けます。 “広告代理店” に相談する理由はそこにあります。
広告主はいつ、どこに、どんな広告をしたらいいかわからない場合が多く、広告代理店に相談します。かたや、広告枠を提供するパブリシャーは広告枠を買ってくれる人がわからないから広告代理店に相談します。
では、広告主とパブリシャーが仮にマッチングアプリか何かで直接繋がれたらどうなるでしょうか?それでも広告代理店はなくならないでしょう。なぜならパブリシャーの中には広告主と直接やり取りをするのが面倒な場合があるからです。
人気がある広告枠は広告主がこぞって広告出したがりますが、パブリシャーは広告主のお問い合わせ1つ1つに対応していたら過労で死にます。そこでパブリシャーは広告代理店をあえて間に入れて、広告主とスケジュール調整や価格調整などさせます。
僕は携わったことありませんが、テレビ広告はこの典型的な例と思われます。
逆にいくら広告主が増えても、全て自動で、パブリシャーの負担が少ない Facebook 広告や Google 広告は、やり方さえ覚えれば広告代理店を間に入れる必要性はそこまでありません。
広告代理店の派手な印象
広告代理店の主なお仕事とは「広告主とパブリシャーの仲介役」です。クリエイティブな要素はほとんどありません。むしろ地味極まりないです。下手すればただの連絡係です。
ではなぜ電通や博報堂には派手でクリエイティブなイメージがあるのでしょうか?それには電通や博報堂のブランディングの努力があると僕は思っています。
仲介業を経験したことのある人ならわかると思いますが、通常仲介業の手数料は非常に低いです。
仮に僕の人脈がすごくて、企業と企業を繋げる営業の仲介業をしていたとします。そこで僕がAさんを B さんに紹介して、BさんはAさんという顧客を手にしたとします。
この時僕が B さんに対して、「紹介手数料として売上の 50% をくれ」なんて言ったらBさんはどう思うでしょうか?ふざけんなって思います。
なので仲介業の手数料ってせいぜい10%ほどで、よくて20%ほどです。
そしてこの結果は広告代理店の数字にもろに出ます。電通や博報堂の粗利率(売上総利益率)は10-25%ほどです。
Cyber Agent 社が売上総利益率で飛び抜けているのはゲーム事業の影響が大きいです。
これは彼らが広告の手数料を10-20%取っていることを表します。そんな広告代理店が利益を最大化しようと思ったら何をするでしょうか?
広告デザインの仕事を取ろうと思います。少なくとも僕ならそうします (笑)
広告デザインは実は色々な制限のもとで、適切なデザインとコミュニケーションが求められる非常に専門性が高い仕事です。そのため広告主が広告をインハウスで制作することは滅多にないでしょう。
そこで広告主は広告デザインを外注するわけですが、この時広告主には選択肢が2つあります。
1. デザイン会社に広告制作を依頼する
2. 広告代理店に広告制作を依頼する
広告主が広告をデザインをする会社を選ぶ基準って何でしょうか?どうせならクリエイティブでコミュニケーション能力のある会社に頼みたいですよね?
なので、電通や博報堂は広告デザインの仕事をより多く受けるために、自分たちが如何にコミュニケーションが上手で、如何にデザインが一流であるかをアピールしています。
結果、電通や博報堂といった広告代理店はなんだかクリエイティブな会社に見えるのです。
世界の色んな広告の賞をいっぱい取っているのもこのためです。
広告代理店のブラックなイメージ
広告代理店はクリエイティブで華やかなイメージがある一方で、忙しくて残業がすごいというイメージがありますよね?これは冒頭でお話した粗利率と関係があると思っています。
広告主の広告予算は残念ながら限られています。100万円の広告予算しかない広告主に、広告代理店は広告予算を200万円に増やせなんて言えません。
仲介手数料は通常広告予算の 10-20%ほどなので、100万円の予算がある企業をお手伝いした場合、広告代理店の手数料は10-20万円ほどです。無論、広告予算が大きい広告主は広告代理店にとって非常に魅力的ですが、その分広告代理店間の競争が激しいです。
予算が大きい広告主の新規契約のプレゼン前は、通常業務に加えてプレゼン準備で広告代理店の方々は残業のオンパレードです。
新規案件のプレゼンの事を”ピッチ”と言ったりします。
また、広告主の全てが大きな広告予算があるわけではないので、広告代理店は普通、社員1人に数社のクライアントを担当させます。要するに1社あたりの広告予算は限りがあるから担当する広告主の”数”を増やすということです。
まとめると広告代理店が忙しいのは、「担当する広告主の数が多いため」と「広告主を獲得するプレゼン準備が多いため」というわけです。
広告代理店が考える方向性
広告代理店は粗利率が低く、広告主を増やすことでしか収益改善できないと聞くとなんだか広告代理店の将来がとても不安になります。そんな広告代理店は将来どのようにして更に収益を上げようと思っているのでしょうか?
広告代理店が考えている方向性をいくつか挙げたいと思います。
1. とことん広告主を増やす(市場シェアを増やす)
2. デジタル広告/ デジタル関連の強化
3. 投資事業
4. パブリシャーになる
まず #1 ですが、これは飲食店で言うと店舗数を更に増やすということです。具体的には海外の広告主も獲得しようとするわけです。ただ日本の広告代理店が海外の広告コミュニケーションを行うのは文化の相違から賢明ではありません。そこで行うのが買収です。
世界で一番大きい広告代理店 WPP はグループ会社がいくつあるかわかりません。電通もイージスグループを買収しています。あまり知られてませんが博報堂も驚くほど色んな広告代理店を買収しています。
次に、#2 デジタル広告/デジタル関連の強化です。デジタル広告はテレビ広告やその他のマスメディア媒体と違い、仕組みが少し複雑です。
DSP、アドネットワーク、DMP、SSP、といったアドテクは聞いてるだけで頭が痛くなりますよね? これらデジタル関連の事業を強化すればなぜ収益アップに繋がるのでしょうか?
それは広告主のデジタル広告への露出が増えているため、そしてデジタル広告は手数料を少し高めに取れるためです。実際2021年、電通の調査ではインターネット広告費がついにマスコミ四媒体(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌)の広告費を超えました。
人は知らないものにはよりお金を出します。デジタル広告は広告主が誰かわからないのと、一応それなりの専門性がいるので、手数料やサービス費用を比較的高く取れる傾向があります。また、コロナウイルス拡大後はデジタル化が急速に普及し、『DX』関連の仕事も増えました。広告代理店はここを狙ってます。
次に#3 投資事業です。その名の通り、自分達が将来性があると思った事業に投資をすることです。電通も博報堂もサイバーエージェントも投資事業を行なっています。
3社の投資方針では、恐らく『デジタル』、『広告』、『クリエイティブ』、『マーケティング』など自社事業と関連性のある事業への投資を行なっていると思います。
自分達で0→1するのではなく、誰かに0→1してもらおうって訳です。
最後に#4 パブリシャーになって収益を最大化する方法です。これは広告代理店が広告主に対して広告枠を提供するということです。
広告枠を作る時に大事なのは人を集める事です。人がいない広告枠には魅力はありません。どこかの田舎駅の広告と、新宿駅の広告では価値が全く異なります。
ただ物理的に存在する建物や空間に広告枠を作ると、広告を目にする人はその場所に実際にいる人に限定されるうえ、広告のサイズも制限されます。
そこで、多くの会社はデジタルな空間に人を呼び込んで広告枠を提供しようとします。こういうのをメディア事業と言ったりします。
セプテーニという会社は漫画アプリを通じてユーザーを引きつけ、アプリを通じて広告枠を広告主に売っています。
またサイバーエージェントはAbema TV というメディアの強化を行なっています。これもサイバーエージェントが将来的に広告枠を提供して収益を最大化するためか、Netflix のようにユーザーからダイレクトで課金してもらって収益を得ようとするためだと思います。
今後はダイレクト課金を大事にして広告を制限するか、或いは Youtube のように必然的に広告を流していくのかが注目です。
applemint はどう考えているか?
では applemint は将来何をしようと思っているのでしょうか?投資事業?パブリシャーになる?どこか買収する?
今のところどれもしません(苦笑)ただ、もし今後シナジーを生み出せそうな会社が見つかれば投資するかもしれません。
ですがひとまずは地に足をつけて、広告代理店が本質的に持たないといけないコミュニケーション能力及びクリエイティブの強化を図ります。実際クリエイティブを鍛えるトレーニングもやっています。
applemint labという僕が運営する面白いことを実験するグループのサイトで、applemintのトレーニングの様子を後悔してるので、気になる人は読んでみてください!
このブログを通して僕が伝えたかったのは、コミュニケーションやクリエイティブを鍛えない広告代理店は、広告代理業というお仕事を理解していない可能性が高いということです。
以上、少し長文になりましたが、広告代理店で働く皆さんの参考になれば幸いです!
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